スペシャルインタビュー

子どもたちが自主的に時間を守る、チャイムのない「名取市立増田西小学校」

学校生活の中で時間を知らせる重要な役割を持つチャイム。学校では当たり前にあるものだが、これを廃止している小学校が宮城県名取市にある。ノーチャイム制度を取り入れているのは、「名取市立増田西小学校」。子どもたちはチャイムが鳴らずとも、自主的に時間を守って学校生活を楽しく過ごしている。この制度を取り入れたきっかけは、子どもたちの申し入れだったというから驚きだ。

今回は、どのようなきっかけでノーチャイム制度が取り入れられたのか、またこれによる子どもたちに対する効果や変化はどのようなものがあるのかなどを、「名取市立増田西小学校」の石川寛之校長先生に詳しく伺った。

インタビューにご対応いただいた「名取市立増田西小学校」の石川寛之校長先生
インタビューにご対応いただいた「名取市立増田西小学校」の石川寛之校長先生

自然と自立を促す教育目標は「たくましく生きる子どもの育成」

――まず「名取市立増田西小学校」の概要や歴史についてお聞かせください。

石川校長:ちょうど今から50年ほど前、この地区の人口が増えていくにあたって、この増田西地区に本校が1974(昭和49)年に創立されました。

今年がちょうど50周年にあたりまして、明日校内で「祝う会」を行います。本校が創立されたときの様子を写したアルバムが残っていたのですが、「祝う会」ではそんな創立当時の様子を伝えようかと思っています。「現在校庭にある高い木は写真の中ではまだ小さいけれど、50年の間でこんなに育っている」など、そんな話をしようと思っています。

また、当時の子どもたちの活動の様子などの記録も残っているので、今と同じことや変化していることの話ができればと思います。

「名取市立増田西小学校」校舎
「名取市立増田西小学校」校舎

――学校の教育方針、また特色のある取り組みがあれば教えてください。

石川校長:教育目標は「たくましく生きる子どもの育成」です。本校ではたくましく生きるということを「自立」と捉えています。将来、子どもたちが社会に出たときに自立できる力やスキルを、小学校の段階でどのようにして身に付けられるかを考えて行動できるようになることが、本校の教育方針です。

自立というと「自分の力でなんでもやる」という印象ですが、それだけではなく、周りの人に「助けて」と言えることも自立のひとつといつも話しています。自分で頑張ることはもちろん必要ですが、他人と協働、協力していくことも自立のひとつと考えています。

きちんと整理された廊下
きちんと整理された廊下

ノーチャイム制度を申し入れたのは子どもたちだった!?

――チャイムのない学校として知られていますが、ノーチャイム制度を取り入れるまでの経緯について教えてください

石川校長:私はこの学校に来て2年目ですが、着任したときにはすでにノーチャイムでした。昼休みなど長い休み時間には、子どもたちは広い校庭で遊んでおりますが、時間になると時計を見て一斉に帰ってくるので、当時はすごいなと感心していました。それがいつからなのか気になって、勤務年数が長い教員に聞いてみたんです。

聞けば、2011(平成23)年の東日本大震災がきっかけだそうです。当時、本校の体育館には避難する方がたくさんいる状態で、学校ですからチャイムが鳴ります。避難している体育館でも鳴るのですが、休んでいる人、寝ている人も多い状況を見た子どもたちから「チャイムを止めた方が良いのではないか」と提案があったそうです。そんな子どもたちの提案を受け、職員も真剣に検討しました。それがきっかけとなりノーチャイムがスタートして、今に至るというわけです。

「3.11 なとり・閖上追悼イベント」などで、今も当時の記憶が紡がれている(提供:東日本大震災アーカイブ宮城)
「3.11 なとり・閖上追悼イベント」などで、今も当時の記憶が紡がれている(提供:東日本大震災アーカイブ宮城)

石川校長:素敵なエピソードですし、まさに自立の形のひとつかなと思います。周りのことを考えて行動できた、素晴らしい事例ですね。

――そこから始まって現在に至るということですが、現在チャイムがなくても支障はないのでしょうか。

石川校長:本校には広い校庭があり、子どもたちも休み時間になると全力で遊んでいます。1年生から6年生まで、たくさんの子どもたちが校庭にいるのですが、時間になると高学年の子どもたちが走って戻ってきます。先生が声がけをしなくても、時計を見て自発的に戻ってくる。その様子を下の学年の子も見ているので、自然とそういうものだと捉え、身に付く部分もあるのかと思います。

広々とした校庭でも、しっかり時計を見て子どもたちは教室へ戻るそう。
広々とした校庭でも、しっかり時計を見て子どもたちは教室へ戻るそう。

――子どもたちは元気な印象を受けましたが、全体的にどのような特徴がありますか。

石川校長:元気に挨拶ができる子が多いですね。お客さまが来たときにも「子どもたちが元気に挨拶してくれますね」と言っていただけることもよくあります。これもノーチャイムと同じで、上の学年の子が普通に挨拶するので、それを見ている下の学年の子が真似をしているのだと思います。良い連鎖になっているのでしょうね。

積極的に地域の人たちと関わることで自立を促す「名取市立増田西小学校

――地域の方との交流や取り組みなどがあれば、お聞かせください。

石川校長:現在、市内すべての小・中・義務教育学校で地域学校協働活動という取り組みをしています。本校の場合だと、子ども会育成会、健全育成会、婦人会などたくさんの団体が関わってくれています。

例えば2年生は、子ども会育成会の方を中心に、地域の農家さんと一緒にさつまいもを育てて、収穫までやっています。12月にはツルを使ってクリスマスリースを作るんですよ。他にも、5年生は米作りを勉強したりと、近くの農家さんにご協力いただくことが多いです。

収穫した大きなさつまいも
収穫した大きなさつまいも

石川校長:ここは名取市の手倉田という地区でして、「枡取り舞」という伝統芸能があります。これは田植え、草取り、収穫を表す舞で、名取市指定の民俗文化財・無形民俗文化財にもなっています。毎年、学習発表会でこの踊りを披露するのですが、練習から本番まで枡取り舞保存会の方に指導いただいています。

「枡取り舞」練習の様子
「枡取り舞」練習の様子

石川校長:他にも地域の方々、保護者、防犯協会等にも協力いただき、街探検や危険箇所マップ作りなども行っています。地域の運動会の「地区民体育大会」も今年から小学校の運動会と一部一緒に行いました。

多様な大人と関わることが自立につながると考えて、積極的に行っています。参加する地域の皆さんも小学生との関わりは楽しいとおっしゃってくださります。地域全体で子どもを見守るだけでなく、活動を共にすることで「地域の子ども」と思っていただけたらと思います。

季節のイベントなど、学校のHPでもその様子が配信されています。
季節のイベントなど、学校のHPでもその様子が配信されています。

自然と都会が共存する住みやすい街、名取市

――学校から見て、名取市の魅力はどのようなところにあるでしょうか。

石川校長:住みやすい街だと思います。大きな商業施設もあれば電車のアクセスも良く、空港もありますし、市民バスも充実しています。名取市は東西に長く、海沿いの学校、街の学校、西の丘陵地帯には山に近い学校もありますので、豊かな自然に恵まれています。都会的でもありながら、自然が身近なところが名取市の魅力だと思います。そして仙台市にも近いです。

「仙台国際空港」
「仙台国際空港」

――名取市のおすすめのスポットはありますか?

石川校長:以前は閖上地区の学校にいたのですが、ここには「ゆりあげ港朝市」や「サイクルスポーツセンター」があります。名取川沿いの「かわまちてらす閖上」もたくさんの人でにぎわっています。

日曜祝日に開催される「ゆりあげ港朝市」
日曜祝日に開催される「ゆりあげ港朝市」

――最後にこれから名取市に住みたいと考えている方々にメッセージをお願いします。

石川校長:名取市には小中学校、そして閖上には義務教育学校という小中一貫の学校の合計15校の学校があります。それぞれの学校で教育活動をしていますし、お子さんを安心して通わせられる教育環境が整っています。自然も豊かで、車でちょっと足をのばせば海もあり、この自然を利用して小学校でもいろいろな自然体験活動を行っております。公共交通機関が整っているので、そういった体験もしやすい、子育てしやすい街なのではと思っております。

校長 石川 寛之先生
校長 石川 寛之先生

名取市立増田西小学校

校長 石川 寛之先生
所在地:宮城県名取市手倉田字堰根330
電話番号:022-382-2546
URL:https://www.natori.city.ed.jp/masudanisi-es/
※この情報は2024(令和6)年11月時点のものです。